都内全域をカバーする医療連携システムを目指して
東京都内の医療の質と安全性の向上、さらにより良い医療サービスの提供に向けて動き出した東京総合医療ネットワーク。これまでの道のりと現在、そして未来について、東京総合医療ネットワーク運営協議会理事の目々澤 肇氏、同理事兼運営委員長の林 宏光氏に語っていただきました。
東京総合医療ネットワーク運営協議会
理事目々澤 肇氏
目々澤醫院院長
東京総合医療ネットワーク運営協議会理事
東京都医師会理事
東京総合医療ネットワーク運営協議会
理事兼運営委員長林 宏光氏
東京総合医療ネットワーク運営協議会理事兼運営委員長
日本医科大学放射線医学教授・放射線科部長・医療情報センター長
日本医科大学ICT推進センター長
患者さんの動態予測から、医療連携ネットワーク構築の必要性を痛感。
目々澤 地域医療連携システム構築の協議は、2015年から東京都医師会が中心となって進めてきました。さまざまな角度から検討したところ、やはり都内の医療ICTネットワークはひとつでなければならないと結論しました。その要因がこちらのデータになります。
林 このデータは2025年の東京都における患者動態の推移を東京都福祉保健局が予測したものです。急性期においては大きな病院が多数存在する区中央部に患者さんが集中しますが、急性期治療が終了し慢性期になると、住まいの近くの病院やかかりつけ医での治療に移行するという傾向が見受けられます。このように東京の中で多くの患者さんが病院から病院等へ移動することが予想されるため、患者さんの病状などを病院間で十分に共有することがより重要になります。そのためには、都内全域をカバーする医療連携ネットワークである東京総合医療ネットワークの構築が必要と考えたのです。
4つのベンダーが揃ったことで、多数の病院間の連携が可能に。
目々澤 異なるベンダーの地域医療連携システムを、コストをあまりかけずにつなぐために考えた仕組みが、IHE規格によるデータセンター間接続でした。まず、全体の8割をカバーするHumanBridgeとID-Linkの相互参照が可能かについて2病院間で実証実験し、問題ないという結果が得られたことから、次に8病院間で名寄せも含め相互参照の運用をスタートさせました。
林 全国的にも前例のないプロジェクトであり、各方面の方に多大なるご尽力をいただきました。ステップ1 、2でHumanBridgeとID-Linkの接続が実証できたことで大病院をカバーできることがわかり、ステップ3として今回新たに2つのシステムが加わったことで、中小規模の病院やクリニックもカバーできるようになりました。
目々澤 これによって都内におけるかなりの割合の病院間で電子カルテの相互連携が可能となったわけです。現在の4ベンダーに限らず、今後ご協力いただける地域医療連携システム事業者も募集して参ります。
PIXにより患者さんの識別が可能、セキュリティ面にも配慮。
目々澤 このようにして揃った4つのベンダー間で、ひとりの患者さんをしっかりと把握するために今回設置したのが上位PIX、名寄せサーバーです。
林 患者さんを識別するIDは病院ごとに異なります。例えば同じ患者さんに対し、A病院では1234というIDが、またB病院では5678というIDが付与されます。それを、ネットワーク上で同じ人物であると結び付けなければなりません。これに対応するため、東京都医師会の方々やベンダーの皆様に大変ご尽力をいただきました。
目々澤 重要なのは、連携したからといって、医師が他の病院の患者さんのデータまで制限なく見られるわけではありません。カルテを見ることができるのは、同意が得られた自院の患者さんのカルテのみです。これは患者さんはもちろんのこと、病院にとっても一番安心いただけることではないでしょうか。
林 東京総合医療ネットワークで情報が共有されるのは、転院先の病院へ情報を開示しても良いという同意書にサインをしていただいた患者さんのもののみとなっていることは、大切なポイントです。
目々澤 紙や記録媒体で情報をやりとりしなくても、ネットワークを介して患者さんの詳細をすぐに把握できる、かかりつけの医療機関でなくても患者さんの背景を把握したうえで治療が開始できるというのは、大きなメリットだと思います。
今後も続々と拡大、都内全域に広がる東京総合医療ネットワーク。
目々澤 こちらの地図にあるように、現在12の医療機関において東京総合医療ネットワークが運用されており、さらに13の医療機関から申し込みをいただいています。今後も地域の中核病院を中心に多くの病院が連携される予定ですから、これからの進展にぜひご期待いただきたいところです。
林 連携が進めば、急性期においては都心部の病院で、急性期治療が終了したあとは住まいの近くの病院で治療を続けられる患者さんの医療を、しっかりとサポートするシステムになるでしょう。ネットワークに加入いただく病院が増えるほど、利便性はさらに高まると考えられます。
目々澤 数年前より東京都からは東京総合医療ネットワークをはじめとする医療連携に対して手厚い補助をいただいています。このような後押しもあり、この先は都立病院や公社病院の参加をはじめ、さらに多くの医療機関に参加いただけるものと思います。
異ベンダー間での情報共有に伸びしろ、理想的な情報共有へ。
目々澤 東京総合医療ネットワークでは、ベンダー間を超えてデータの参照を行いますが、残念ながら現在のところ、すべてのデータを相互参照できるわけではなく、規格が決まっているもののみとなっています。
林 下表のように同一ベンダー間であればすべてのデータ参照が可能ですが、異なるベンダー間で制限があり、この先の実証実験の成果を今後反映する予定となっています。DICOM画像の共有は臨床的に非常に重要ですし、また医療事故を未然に防ぐという意味では、アレルギー情報の正確な共有は、患者さんにとって大きな安心につながると思います。
目々澤 私たちが今後取り組むべきことは、連携できる病院を増やし、情報共有できる患者さんの数を増やすことです。患者さんが大きな病院へ移ったとしても、まるでかかりつけのお医者さんがそばでずっと見ているかのような、カルテのスムーズな連携を実現させたいと考えています。
(敬称略)